二重登録〜アジアリーグ・アイスホッケーのリーグ規約をめぐる問題

概要

アジアリーグ・アイスホッケー 2016-2017 プレーオフ・セミファイナル 第4戦 アイスバックス vs サハリン (2017/4/1) に先立ち、アイスバックスがサハリンの選手登録違反をアジアリーグに報告

プレーオフ・セミファイナル サハリン vs アイスバックス 第1・2・3戦に出場したサハリンの3選手が、2016-2017シーズンにKHL(ロシア コンチネンタル・ホッケー・リーグ)のウラジオストク・アドミラル(Admiral)の選手として登録・出場実績があり、サハリンの選手として出場したことがリーグ規定の違反にあたるとして、アイスバックスが報告すると共に、処分に対する要望を提出しました。

  • DF #73 アイリン・セルゲイ選手
  • FW #76 イワノフ・イルヤ選手
  • FW #92 ヤコフレフ・エゴル選手

これに対してアジアリーグは、「審議したものの処分は科さない」との結論

すでに終了したプレーオフ・セミファイナル第1・2・3戦の取り扱い、該当選手の第4戦以降の出場可否について何も対応はなく、該当3選手が引き続き出場した第4戦に勝利したサハリンがファイナルに進出しました。

今後の動きは?

アジアリーグ

2017年3月31日にアイスバックスへ提出した回答書(リンクは後掲)で「4カ国が1つのリーグで構成されている現状の状況に合う規約に改定していきます。」と述べた後、4月1日に行なった記者会見(サンスポ記事へのリンクを後掲)で「このままの規約でいいのか、検討したい」と説明しています。

アイスバックス

2017年03月31日 更新のお知らせ「アジアリーグからの回答書」(リンクは後掲)にて「チームの今後の対応につきましては、協議中となり、追って発表致します。」としています。

2017-2018 シーズンの追加選手登録期限の直前にサハリンが7選手を追加登録

2017年12月30日付けでアジアリーグ公式Webサイトからお知らせがありました。


該当のリーグ規約〜第58条<選手登録>

第6章 登録および移籍 - 第1節 登録 - 第58条<選手登録>

チームは、リーグが定める日までに所定の登録用紙と、選手の写真と個人情報のあるページのパスポートコピーを添えて、実行委員会へ登録を行わなければならない。
(1)シーズン登録選手
リーグ参加国連盟・協会の登録選手で、当該シーズンにおいて他のチームに登録されていない選手、外国籍選手を含め、チーム保有選手をシーズン登録選手として登録を行わなければならない。尚、登録人数の上限は延べ40名とする。
(2)登録期限
シーズン途中での全ての選手追加登録期限は、12月31日までとする。
(3)外国籍選手
①外国籍選手枠については、実行委員会にて検討し、総会にて承認を行う。
②外国籍選手は、国際規約に基づく所定の移籍手続きを行い、国際アイスホッケー連盟が発行する移籍手続終了の証明書のコピーを実行委員会へ提出しなければならない。
③日本、韓国、中国国籍保有選手は、リーグ加盟のいずれかのチームに登録する場合に、外国籍選手枠外での登録を認める。但し、その登録には国際規約に基づく所定の移籍手続きを行い、国際アイスホッケー連盟が発行する移籍手続終了の証明書のコピーを実行委員会へ提出しなければならない。
(4)ベンチ入り登録
国際アイスホッケー連盟のアイスホッケー公式国際競技規則に準ずる。

「シーズン登録選手」とは?

以下の3条件を満たしており、リーグが定める手続きを経て実行委員会へ登録された選手、と解釈できます。

  1. リーグ参加国連盟・協会に登録されている選手
  2. 当該シーズンにおいて他のチームに登録されていない選手
  3. チームが保有している選手

二重登録に関するアジアリーグの見解

2017/3/30 付 アジアリーグからのお知らせ

アジアリーグは、「いつもアジアリーグアイスホッケーを応援いただきまして、ありがとうございます。」とファンに向けたお知らせにて現在協議中であることを発表しましたが、「関係者の皆様へご報告させていただきます」と詳細をファンに報告する意向を見せませんでした。

実際、アジアリーグからファンに向けて4月1日(土)に発信されたお知らせは「審議してきましたが、処分は科さないことになりました」という簡易なものでした。

アジアリーグから報告・説明を受けた「関係者」からの発表・報道は?

アイスバックス

アイスバックスは、アジアリーグへ提出した要望書と受け取った回答書の全文を公開しました。

これによると、アジアリーグの見解は下記の通り。

現行のアジアリーグアイスホッケー規約 第58条 選手登録 (1) シーズン登録選手にある「他のチーム」という表現が、アジアリーグ内のチームを示しているのか、またはリーグ外のチームを示しているが(注: 文中のまま。「示しているのか」のタイプミスと思われます)不明瞭であることから、今回の登録については違反であると断言できません。

アジアリーグアイスホッケーの規約に違反した場合の具体的な制裁内容が定められておりません。したがって、今回のサハリンに対する処分につきましては、1に記載された登録についての見解も含め、処分を科さないものとします。

参考: リーグ規約 第5条<遵守義務>

(1)リーグの役員、ならびにリーグに所属する監督・コーチ・選手・レフェリーは、リーグの構成員として、本規約を遵守する義務を負う。
(2)リーグは、チームまたはチームに所属する監督・コーチ・選手、役員その他の関係者が、本規約に違反した時は、実行委員会にて審議され、総会で決定される制裁を科すことができる。

アイスバックスが追加で報告した、第56条<禁止事項>の違反についてはこちらのページへ

報道機関

サンスポの記事によれば、4月1日(土)にアジアリーグが記者会見を行なっています。


二重登録に関する他の関係者の認識は?

サハリンの選手登録について、2016年9月には韓国で話題に挙がっていました

Sports.News.Naver.com 2016.09.09 오전 11:38

아시아리그 등록 선수 한도인 40명을 이미 꽉 채웠는데 이 가운데 무려 11명이 올 시즌 KHL(러시아대륙간아이스하키리그) 어드미럴 블라디보스톡 소속으로, 이 가운데 9명은 팀 전력의 중추를 이루는 수준 높은 선수들이다. 이중 등록과 관련한 규정이 없는 아시아리그 룰의 맹점을 파고 들어, 블라디보스톡의 일정과 상황에 따라 KHL 선수들을 활용, 아시아리그 정상에 오르려는 의도로 보인다.

AnyangHalla.com 2016.9.9 (16:07:42) 2016.9.9 (16:26:53)

아이스하키 강국 러시아 소속 클럽으로 두 시즌 연속 아시아리그 정상 정복에 실패한 사할린은이번 시즌 ‘리벤지’에 대한 각오를 단단히 다지고 있다. 오프시즌 대대적으로 선수를 보강한 데 이어지난 주에는 무려 15명의 선수를 추가 등록, 아시아리그 등록 정원(40명)을 꽉 채웠다.이 가운데 무려 11명이 러시아대륙간하키리그(KHL) 블라디보스톡 어드미럴스의 현역 선수다.필요에 따라 KHL 선수를 불러들여 로스터를 강화하겠다는 뜻이다.

사할린은 이번 안양 원정에지난 시즌 KHL 정규리그 50경기에서 8골 7어시스트를 기록한 공격수 키릴 보로닌을 대동하는 것으로알려지고 있다. 보로닌은 2016~17 KHL 시즌에도 4경기에 출전 1골 1어시스트를 기록한블라디보스톡의 주력 선수다. ‘리벤지’에 대한 사할린의 결의가 읽혀진다.

この記事で名前が挙がっている Kirill Voronin 選手は 2016/9/10, 11, 13 の ハルラ vs サハリン にFW#41で出場。2016-2017 シーズンには、サハリン含めて4チームに在籍したようです。

EliteProspectsの「TRANSACTIONS」セクションを見ると、Kirill は2015年6月にアドミラルとトライアウト契約を交わしています。同年8月にパスしてアドミラルと本契約となり、2016年4月に2年契約を更新しています。しかしながら、2016年12月に金銭トレードでザグレブに移籍しています。


考察: Examination by IceHockeyStream.net

第58条 (1)「他のチーム」が指すものは?

確かに日本語で「他のチーム」というだけでは対象が不明瞭かもしれません。しかしながらアジアリーグは国際リーグであり、現在の参加国はそれぞれ言語が異なります。何語をもって認識を統一しているのでしょうか? リーグ規約では公用語を定めていませんが、例えば英語で「他のチーム」を表現すると、思いついただけで以下があり、それぞれ対象が異なります。

  • other teams
  • any other team
  • the other teams

サハリンやハルラ、韓国のメディアが、どの言語版のリーグ規約のどのような記述に基づいて「アジアリーグでは二重登録を禁止しているわけではない」と判断したのか知りたいところです。

第58条 (1)「チーム保有選手」とは?

2016年9月にハルラのサイトで言及された Kirill Voronin 選手は、2016年4月にアドミラルと2年契約を交わし、2016年12月にザクレブへ金銭トレードされたことがWebで紹介されています。8〜9月はまさにアドミラルとの契約期間内であったわけですが、このことはサハリンが Kirill を選手登録したときに「Kirill がサハリンの保有選手であった」ことと矛盾しないのでしょうか?

参考: チーム保有選手とシーズン登録選手の関係

東北フリーブレイズ FW#51武尾秀康選手とFW#52梅野宏愛選手は、2016年6月に練習生としての入団が発表されました。その時点で東北フリーブレイズの「チーム保有選手」となったと考えられます。しかしながら、2016-2017シーズン開幕時には「シーズン登録選手」として登録されておらず、試合に出場できるステータスにありませんでした。

 

この例から「チーム保有選手」と「シーズン登録選手」は包含関係にあり、時系列でみたら「保有->登録」という順序になることが分かります。条文で「リーグにシーズン登録選手として登録された選手をチーム保有選手とする」と定義しているとは考えられません。


関連ページ

2017-2018 シーズンの2017年12月30日に公開されたサハリンの追加選手登録

2016-2017 シーズンにアイスバックスが追加で報告した規約違反について